大分県由布市挾間町の「谷むら」と呼ばれる地域では、地元の有志が集まり「谷むらづくり協議会」として活動しています。
地域の魅力を見つめ直し、昔ながらの食文化や伝統野菜を次の世代に伝えることを目指して、様々な取り組みを行っています。
 今回は、家で食事を取ることが多い「土曜日の食卓」に注目。
代々家庭で受け継がれてきた懐かしい郷土料理のレシピを、地元の方々に教えていただきました。

~今昔、谷むらのなにげない土曜日の食卓を訪ねる~

~ 2025年 夏 第1号 ~

クリックすると掲載しているレシピがご覧いただけます。 ぜひご覧くださいね。

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~ 台所から ~

第1号に登場くださった方々のインタビューをちょっと。

 黄色いさつまいもがコロコロ入った石垣もちを頬張ると、ふんわりとした甘さが広がります。
その味わいは口の中だけでなく、心にまでやさしく染み渡っていくようでした。作るときのポイントは、しっかり蒸気を上げてから蒸すこと。「そうせんと、ぺちゃーんとなってしまうけんなぁ」おまんじゅう作りの名人・咲子さんの明るい声が、公民館のお台所に響きました。

 「谷むら」は由布市挾間町の、少し山手にあるのんびりとした地域。古くから伝わる地域のお料理を作ってくれたのは、咲子さんと博美さんです。おまんじゅう以外は目分量で大丈夫。「田舎の人はだいたい勘やぁ」と笑う博美さんは、今日のメインディッシュ「こねり」を作ります。

茄子の皮をむく博美さん。「茄子は溶けるけん最後のほうに入れような」

◎今日はゆるめに作ろう

 「こねり」とは、家にある野菜を炒めて好みの味をつける夏のおかず。欠かせないのは苦瓜(にがうり)と茄子。そして最後に、水で溶いた小麦粉で全体をまとめます。
 「みんなは固めが好き? 私はゆるめに作るのが好きやけん、今日はゆるくしよう」と博美さん。博美さんが子どものころは近所の母屋にみんなで集まり、大勢で食卓を囲むことが多かったそう。大鍋で作る「こねり」は、そんな懐かしい思い出の味です。

 人数が多いときは粉を増やしてボリュームアップ。ゆるさや固さの加減もお好み次第。ちりめんじゃこや、ほぐしたいりこを最初に炒めると、出汁が出て旨味もたっぷり。博美さんが家から持ってきたタケノコのきんぴらも「入れちゃいまーす」と、大きなお鍋に投入。シャキシャキとした歯ざわりが加わり、絶妙なバランスに仕上がりました。

 自由な感覚で楽しそうに作業をする博美さんを見ていると、お料理ってライブなんだなぁと感じます。

「ちょっとゆるめ」が大好きな博美さんのこねり

◎熱々に黒砂糖を乗せて

 咲子さんは、おやつに「じり焼き」を作っています。地元産の小麦粉(地粉)を使いますが、スーパーで買うなら中力粉でOK。約700gの粉に塩少々、卵2個、しっとりさせるためのサラダ油を少しだけ加えて軽く混ぜたら、水を少しずつ足していきます。
 「おたまを使うとダマになりやすいけん、お箸で混ぜるといいよ」と咲子さん。とろとろに溶けた生地は、フライパンに垂らすとまるでリボンのように流れていきました。

 表と裏を焼いてクレープ状になったら、粉状にした黒砂糖を平たくのせて、くるくると巻きます。斜めに切ると、渦巻き状の断面がきれいに見える。熱々の生地にほどよく溶けた黒砂糖がぴったりで、コーヒーにも麦茶にも合いそうです。あんこもロールケーキのように巻いて、2種類のじり焼きがおしゃれに出来上がりました。

レシピじき焼き2

咲子さんは使い慣れたフライパンを持参。
「じり焼きはクレープみたいなもんやな」

くるくると巻いた断面が美しい「じり焼き」

◎「お腹がすいたね、いただきます」

レシピ食卓3

公民館の長机があっという間に豊かな食卓に様変わり

 博美さんが作った「ふきの佃煮」は春の名残を感じさせ、三杯酢をかけたお漬物には盛夏になるとカボスの香りが加わります。咲子さんお手製の酒まんじゅうや石垣もちも、お皿にこんもり。ちょっとピリ辛な「わらびの南蛮漬け」や、シャキシャキ感がくせになる野草「いたどりのきんぴら」まで、初夏のこの一瞬をぎゅっと盛り込んだ品々が、長机の上にずらりと並びました。
す。
 深めのお皿に「こねり」を注ぎ分けると、スタッフから歓声が上がりました。「いただきまーす!」今日初めて会った人も旧知のお二人も、食卓を囲めば会話もお茶もエンドレスに進みます。

レシピふき煮つけ2

ふきの佃煮

レシピ浅漬け

三杯酢をかけたお漬物

レシピ饅頭

酒まんじゅう(写真左)と石垣もち

レシピわらび煮つけ

わらびの南蛮漬け

レシピいたどりきんぴら

いたどりのきんぴら

 「今日作ったお料理は、誰から教わったんですか?」と尋ねると、お二人とも「見よう見まねやなぁ」と答えます。お母さんや料理上手なご近所さん、地域の女性部会の活動など、一緒に台所に立ちながら受け継いできた味なのです。
 「材料は同じでも、さじ加減があるでしょ? だからやっぱり一緒に作ってみないと、同じ味にはならんよね」と博美さん。咲子さんも、近所に住んでいたおばあちゃんからよく味付けを習ったといいます。「(みんなとお料理する)こういうとき、アイコばあちゃんがおったらよかったのになぁと思うよ。私も今まで何十年と、相当失敗してきたけど、でも失敗せんと美味しいもんは
できんねぇ」ー咲子さんの言葉に、博美さんが「そうよー!」と大きくうなずきます。

今度の土曜日は、教わった料理をひとつ、試してみようかな。

レシピ料理人2

美味しいお料理を作ってくださった
佐藤咲子さん(左)と平島博美さん

「きょう、土曜日。」は「郷土料理」
博美さんのようにおおらかに、咲子さんのように明るく料理を作れば、きっとそこにはゆったりとした「谷むら時間」が流れはじめることでしょう。